インパラの朝 ユーラシア・アフリカ大陸684日
第七回開高健ノンフィクション賞受賞作のノンフィクション。26歳の私は、ユーラシア・アフリカ大陸へ2年間の旅に出る。「その地域に生きる人たちの小さな声に耳を傾けること」を主題に、そして、その“小さな声”を手がかりに、生き延びる手段を模索し、世界を見つめ直していく。
本書より一文
四川省からチベットに入り、世界の屋根を移動した。小さな乗り物を乗り継いで、街から町へ、村から集落へと、一歩一歩コマを進めた。<略>
「ハロー、マネー?」ゲーム感覚で物ねだりをする学校帰りの子供から、攻撃的な追っかけを執拗に繰り返す路上の子まで、物乞いをする子供の群れの中には、さまざまなタイプが含まれていた。<略>
朝、小汚い子供たちは、「ハロー、マネー?」を繰り返し、私たちの前に現れた。<略>
朝10時にそこに立ってから、夜の9時を過ぎるまで、私たちは同じ場所に居座った。その間、ほとんどずっと子供たちが傍らにいた。日が暮れて闇が押し寄せ、冷たい山風が吹き付けてきた。一番星を追うように、星屑が夜空を埋め始めても、子供達はやはりそこにいた。子供たちは、もう「ハロー、マネー?」とは言わなかった。私たちの足下にしゃがんだまま、地面の砂に絵を描いていた。耳を澄ますと、つぶやくように小さな声で、現地語の会話が聞こえてきた。
目次
向かう世界
ささやきを聴く―ヒマラヤ山系
カオス―東南アジア~インド
小道の花々―インド~パキスタン
ウォッカの味―中央アジア
悪の庭先―中東
鼓動―東アフリカ
内なる敵―南アフリカ
血のぬくもり―西アフリカ
世界の法則―サハラ北上
終章 去来
著者紹介
中村 安希
1979年京都府生まれ、三重県育ち。98年三重県立津高等学校卒業。2003年カリフォルニア大学アーバイン校、舞台芸術学部卒業。日米における三年間の社会人生活を経て、06年ユーラシア・アフリカ大陸へ旅行。各地の生活に根ざした“小さな声”を求めて、四七ヵ国をめぐる。08年帰国。国内外にて写真展、講演会をする傍ら、世界各地の生活、食糧、衛生環境を取材中。他に、海外情報ブログ「安希のレポート」を更新中(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
書評
著者のブログを発見し、その内容に強烈な興味を持ち、この本に出会いました。
壮大な旅を成し遂げた若い女性。この本がすばらしいのは、著者の繊細な感性にあると思います。本書の冒頭に「大きな声で話すばかりがコミュニケーションではない。小さな声にそっと耳を傾けること。それこそがコミュニケーションの核ではないか」と書かれていますが、この「ささやき」を聞いた時が、この旅の核になっていると思います。読む側もこの「ささやき」を読み逃がさないようにしないといけませんね。

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